大昔、ブッダが生まれる遥か前に、アーリア人が持ち込んだインド思想の源流をたどってみよう。

そもそも、アーリア人とは?

いきなりサジを投げてしまうようで申し訳ないが、アーリア人は非常に把握しづらい人種だ。

一般的に、「狭義のアーリア人」は、中央アジアのトゥーラーンを出自とするグループを指す。彼らは紀元前1500年以降にインドやヨーロッパに拡大していったイラン集団(イラン・アーリア人)である。ちなみに、現在の「イラン」という国名は、ペルシア語で「アーリア人の国」を意味である。

 

また、「広義のアーリア人」インド・ヨーロッパの祖先に共通の言葉(祖語)を話していた民族とその子孫のことを指す。(上図のインド・ヨーロッパの薄い青色の部分。分かりづらくてすいません。)

 

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(紀元前6世紀のベヒストゥン碑文。イラン西部で「アーリア」という語が最も早く叙述された文章のひとつ。)

もっというと、「アーリア」は「高貴な」という意味の誇称であり、特にアーリア人という人種がいたわけではないというのが定説のようだ。

つまり、「広義のアーリア人」は人種ではなく、過去にインド・ヨーロッパ祖語(祖先に共通の言葉)を話していた民族の中で、社会的身分の高い人をアーリアとしたようである。
(英語で Aryan(古くはArian)、サンスクリット語では ārya、古代イランのアヴェスター語ではairyaとされ、いずれも「高貴な」という文脈で使われていた。)

 

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(フランスのゴビノー伯爵。1853年から『人種不平等論』を連載し、ヨーロッパ人、広くアーリア人種の優越性を説いた。)

しかし度々、アーリア人の概念は、19世紀の白人至上主義(他国の植民地化を正統化しようとしたフランスのゴビノー伯爵)や、民族優位性を示すナチス(ゲルマン人は、純粋なアーリアの血統で、最上位の人種であるとした。)などに悪用されたりした。

つまり、アーリア人は、ヨーロッパの白人の起源であり、多くの発明や改革などを世にもたらし、多人種であるユダヤ人や黄色人種、黒人などより優れているという文脈で使われることがあったのだ。

広義のアーリア人の概念は、歴史的にも支配構造を形成していく側面があったので使用する際に注意が必要だ。(インド・ヨーロッパ語族と呼ぶのがふさわしいと思う。ただ、本稿では便宜をふまえアーリア人と表記することにする。)

 

インドに進行するアーリア人

話を過去に戻そう。

紀元前1500年頃から、アーリア人は数回にわたり北西インドに侵入を始めた。先住民族に同化しながら勢力を広げていき、ブッダの時代にはガンジス川中流域におよび、南インド、セイロン(スリランカ)にまでその足を伸ばしていった。

アーリア人の侵入以前、インダス川流域に栄えたインダス文明は、高度に整備された都市を持ち、武器をほとんど持たず、王の巨大な墓もなかった。

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ちなみに、アーリア人がインダス文明を滅したという説があるが、インダス文明の滅亡(前2600年〜前1800年)がアーリア人の移動と重なっていないことから、現在はインダス文明が滅んでから、アーリア人が移住したという考え方が趨勢のようである。

また、アーリア人は、馬に引かせる戦車を持ち、牛を財産とし、麦を生産し、ラージャンと呼ばれる首長が部族を率いていた。彼らは自然現象を神格化した多神教を信仰し、なかでも戦闘的なインドラ神と祭祀の中心となる火神アグニが崇拝されていた。

 

アーリア人の諸宗教への影響

前述したように、はるか昔からアーリア人は火炎崇拝をおこなっていた。火そのものを神格化し、神の象徴と見て宗教儀式に用いていた。

 

The Story Of Zoroastrianism, Ancient Persian Religion

拝火教といえばゾロアスター教だ。しかし、アーリア人の信仰に対し、ゾロアスター教は基本的に善と悪の戦いをモチーフにした二元論である。ゾロアスター教における火とは、光(善・清浄・正義・真理)の象徴とされ、崇められた。(火そのものを崇めているのではない。)

(しかし、そのような区別はありながらも、本来、古代アーリア人の諸宗教とゾロアスター教の境界は曖昧であるという説もある。青木健氏の説)

ここで述べたいのは、アーリヤ人の宗教はゾロアスター教などを始めとする諸宗教の源流になっている可能性があるのだ。

 

バラモン教への影響

Nine female deities (?) performing a yagna, a fire sacrifice, an ...

そのひとつに、のちにインドで絶大な影響を及ぼしたバラモン教がある。

紀元前13世紀頃、インド・アーリア人がインドに侵入した際に、先住民族であるドラヴィダ人を支配する過程でバラモン教が形成されていったという説が一般的である。

バラモン教の階級制度の特徴はなんといってもカースト制度だろう。

 

では、次回はバラモン教についてみていこう。
なんといっても、仏教はバラモン教を批判する形で生まれた宗教なのだ。