Brian Eno – Ambient 1 (Music For Airports)
サティの家具としての音楽
環境音楽(アンビエント・ミュージック)は、よくフランスの作曲家エリック・サティによる「家具としての音楽」によくその起源を見い出される。
サティの「家具としての音楽」は、生活の中に溶け込むように作られた音楽である。家具のようにそこにあって、日常生活を妨げない。また、意識的に聴かれることのない音楽、といったものを指していたようだ。
(ちなみに、サティがコンサートで演奏する際、会場のお客さんがじっくり黙って聴き入ってしまい、「みんなもっと喋って!」とサティが騒いでしまったという珍エピソードがある。)
また、そのテーマには、音楽の非日常的な性質に反発し、人間の日常生活に与する音楽本来の姿を取り戻すという動きもあったようだ。
昔、キリスト教文化が希薄だった時代のドイツでは、ロマン派以降、音楽を神聖視するあまり音楽について言及することが不徳に類する行為に思われていたようである。いわば、音楽が宗教の代替品になっていた。よく耳にする「音楽を言葉で語るな」というクリシェはドイツにその起源を求めることができるのかもしれない。
そのように音楽を遠く仰ぎ見ることに対し、音楽を生活のなかに再び密着させようとする意図がサティにはあったのかもしれない。
アンビエント・ミュージックについて
アンビエント・ミュージックにも本来、音楽によってどこか非日常へ連れ去られるのではなく、この日常にどのような音楽を流すのか、というテーマがあるのだろう。
(また、アンビエントというのは、「周囲の」というニュアンスもあるから、自然の音をそのまま抜き取ったフィールドレコーディングのような人間が誰もいない自然のような空間ではなく、どちらかというと人を中心においた居住空間を志向していると考えられる。)
しかし、アンビエント・ミュージックの先駆者であるBrian Enoはインタビューでさらに興味深いことを語っている。
Music For Thinking – 考えるための音楽 –
前述したように、Brian Enoはアンビエント・ミュージックの先駆者である。
ちなみに、マイクロソフト社のオペレーティングシステム、「Windows 95」の起動音「The Microsoft Sound」は彼の作曲によるものである。
彼のAmbientシリーズの1作目「Music For Airport」は文字通り、空港のために作った音楽で、実際にニューヨークの空港では彼の曲が使用されている。
本題のEnoのインタビューを紹介しよう。(以下、三田格氏の「アンビエント・ディフィニティヴ 1958-2013」からEnoのインタビューを一部抜粋。)
「人間は物事を支配することに長けていることを非常に誇りに思っていると私は思っている。」
「しかしながら、多くの場合において、人間が支配できないこともある。そういう状況では、支配できないのであれば、身を委ねるということを学ばなければならない。」
「我々は常に支配と身を委ねることの間を行き来しているんだ。そこで、身を委ねるということは、物事を支配するのと同じようにスキルと才能がいるものなんだ。あまり話題にすることはないが、人間が非常に欲しいているものでもある。人間というのは身を委ねることが好きなんだと思う。だからセックス、ドラッグ、アート、そして宗教が存在するのだと思う。これらは全て自分自身以上のものに自分がなれるものであり、自分よりも大きな存在と繋がることができるものであり、自分をどこかの境地に連れて行ってくれるものなんだ。」
「我々が何か素晴らしいアート体験の話をするとき、あるいはドラッグ体験でもなんでも構わないが、「頭がぶっ飛んだ」「身体が宙に浮いたみたいだった」という表現を使うが、これらの表現はどれも理性(支配、コントロール)を失った、でも最高に楽しかったと言ってるんだ。だから、理性を失うことを楽しむことはアート体験の重要な部分をしめていると思う。」
ここでEnoはアンビエント・ミュージックも含め芸術が日常性と非日常性の両面を備えていることを言及している。
更にインタビューの続きで、彼の作品のコンセプトについても言及している。
(インタビュアー)「いま、もしもナチスのような政権が誕生して、あなたの作品も1枚だけしか後世に残せないと言われたら、どの作品を後に伝えたいですか。」
Enoはその質問に答えるのはちょっと難しいなと前置きをしながら、当時の最新作「LUX」を選ぶと答えている。
このアルバムのテーマを「Music For Thinking」と述べたうえで次のような発言をしている。
「こういう音楽は自分の意識を落ち着かせる、意識を集中させる手段に近い。きちんと思考できるよう、自分を落ち着かせ、穏やかさを取り戻す為のものだと思っている。だから、本当にナチスのような圧政的政権だとしたら、人々が問題を乗り越える思考ができる音楽を残したいと思う。」
このように音楽の使用法を根底から捉えなおし、作品を生み出していくスタンスに学ぶことは大きいと思い、今回の記事で紹介させていただいた。
それではまた。